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2013年11月29日 卓話 中嶋進治会員

「婚外子格差違憲決定についての雑感」



一 婚外子格差違憲決定
  平成25年9月4日最高裁判所は民法第900条4号ただし書の規定のうち、「嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分は憲法第14条1項に違反し無効である。」という決定を告知した。

二 最高裁の決定に至るまでの経過(決定理由)
 1 基本的な考え方
   相続制度は、被相続人の財産を誰に、どのように承継させるか。伝統、社会事情、国民感情等も考慮。婚姻ないし親子関係に対する規律、国民の意識等

                   ↓
   総合的に考慮したうえで、立法府の合理的な裁量判断に委ねられている。
                   ↓
   立法府の裁量権が認められている。
しかし、裁量権を逸脱して合理的な区別ではない
                →憲法第14条1項に違反
 2 昭和22年改正民法(新憲法の理念に沿って家督相続の廃止等全面改正)においても「婚外子の相続分を嫡出子の2分の1にする」規定(以下「2分の1規定」という)が制定。
 3 しかし、昭和22年以降、社会、経済状況の変動に伴い、婚姻や家族の実態が変化し、その在り方に対する国民の意識も変化してきた。
① 職業生活を支える最小単位として夫婦と一定年齢までの子を中心とする家族が増加
② 高齢化の進展に伴って生存配偶者の生活の保障の必要性が高まることにより、相続財産の持つ意味も変わってきた。昭和55年の改正により、配偶者の相続分が引き上げられる。(例。妻と子の場合、妻1/3、子2/3→妻1/2、子1/2)
③昭和50年代前半以降、婚外子の出生数が増加し続けていること
④平成期に入った後は、晩婚化、非婚化、少子化が進み、これに伴って中高年の未婚の子がその親と同居する世帯や、単独世帯が増加。
 離婚件数、特に未成年の子を持つ夫婦の離婚件数や再婚件数も増加
               ↓
 これに伴い、婚姻、家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大いに進んでる。
⑤諸外国の立法の傾向
 嫡出子と非嫡出子との平等化が進む
ドイツ  1998年(平成10年)
フランス 2001年(平成13年)
差別が撤廃される。現在では差異を設けている国は欧米諸国にはなく、世界的にも限られている。
⑥わが国は
昭和54年「市民的及び政治的権利に関する国際規約」・・A
平成6年「児童の権利に関する条約」・・B
を批准
これらの条約には「児童が出生によっていかなる差別も受けない旨の規約が設けられている。」
国際連合の関連組織として、
Aの条約に基づき自由権規約委員会
Bの条約に基づき児童の権利委員会
が設置
これらの委員会は、条約の履行状況について、締結国に対し、意見の表明、勧告等ができる。
→我が国に対し
平成5年自由権規約委員会が包括的に嫡出でない子に関する差別的規定の削除を勧告、その後も両委員会は具体的な規定を問題にして、懸念の表明、法改正の勧告を繰り返してきた。
平成22年にも児童の権利委員会が2分の1規定の存在を懸念する旨の見解を示している。
⑦我が国における法制の変化
ア)平成6年住民基本台帳事務処理要領の一部改正
  世帯主の子は嫡出子が被嫡出子を区別することなく、一律に「子」と記載
イ)平成16年 戸籍法施行規則の一部改正
  戸籍における非嫡出子と父母との続柄の記載で嫡出子と同様に「長男」「長女」と記載されることになった。これは、既に「子」と記載されている場合でも、「長男」「長女」に更正されることになった。
ウ)非嫡出子の日本国籍の取得につき、嫡出子と異なる取り扱いをした国籍法を同じにすると平成20年に法改正
⑧ 2分の1規定撤廃に向けた立法作業
ア)昭和54年法制審議会民法部部会身分法小委員会が「相続に関する民法改正要綱試案」において、2分の1規定を撤廃する案を提起
イ)平成6年同小委員会「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」及び、これを更に検討したうえで、平成8年法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」においても2分の1規定を撤廃することが明記
ウ)平成22年上記要綱と内容を同じくする法律案が政府により準備
4 にもかかわらず、2分の規定が撤廃されなかったのは日本の特殊事情か。
①欧米諸国の多くでは、非嫡出子の割合が著しく高い。50%以上に達している国も存在する。
②他方、我が国では、非嫡出子の出生数は年々増加しているが、平成23年でも2万3000人余。割合としては約2.2%に過ぎない。全体として非嫡出子を避ける傾向がある。
③家族等に関する国民の意識の多様化がいわれつつ法律婚を尊重する意識が広く浸透している。
 5 しかし、2分の1規定の合理性は、個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らし、非嫡出子の権利が不当に侵害されているか否かという観点から論じられるべき法的問題なのである。
法律婚を尊重する日本人気質、非嫡出子の出生数の多い少ない、諸外国との比較が上記法的問題の結論に直ちに結びつくものではない。
 6 平成7年7月5日最高裁判所での大法廷決定(以下「平成7年決定」という)においては2分の1規定が合憲だとされていた。
 しかし、裁判官15人のうち、5人が非嫡出子の立場を重視すべきとして反対違憲を表明した。
  (注)憲法違反の判断は15名の最高裁判所裁判官が構成する大法廷でしなければならない(裁判所法5条、10条)。
 7 平成25年最高裁判所決定は、平成7年以降の上記の変化を踏まえて、平成13年7月当時において、「父母が婚姻関係になかったという子にとっては、自己選択ないし修正する余地のない事柄」を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されない。子を個人として尊重し、その権利を保障すべきである。
 2分の1規定は遅くとも平成13年7月当時憲法第14条1項に違反していたというべきである。

四 何故平成13年7月当時での判断なのか。
違憲審査権は、法令そのものが違憲か否かを判断すべきものではない。個別の案件が裁判で争われるときに、それが適用される法律の条項が違憲かどうかを判断する。
   従って、本件も、平成13年7月に死亡した者の遺産について、嫡出子が非嫡出子に対して2分の1規定に基づいて申し立てた遺産分割の審判において、その規定が憲法に反するから無効であると争われた案件である。

五 平成13年7月から現在まで発生した相続についてはどう処理されるのか。
  2分の1規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼさない。

六 今後の展望
1 立法的に解決しなければならない。
  11月12日 2分の1規定を削除する民法改正案を今国会中に提出することを閣議決定した。
  但し、出生届に嫡出子か非嫡出子かを記載することを義務づけた戸籍法の改正は見送った。
2 2分の1規定を削除する改正民法がいつから発生した相続に適用されるのかも関心がある。

七 雑感
  社会、経済状況の変化、又、これに伴う国民の考え方、感情の変化に伴い、裁判、法律も変遷していく。
  大きな流れとして、個人の尊重(憲法第13条)、法の下の平等(同第14条)等憲法に定められている基本的人権が理念としてだけではなく、現実の生活においても貫かれていく傾向にある。

# by osakajotorc | 2013-12-02 14:42 | 卓話